まさかの第10弾ですね。こんなことに時間使わなくていいのに。
ともあれ、せっかくキリ番なので有名なやつ行きましょう有名なやつ。Plogueから出ているボーカルシンセプラグイン「Alter/Ego」です。VOCALOIDとかUTAUとかと違ってDAW上でプラグイン動作します。……うーんそこまで有名じゃなかったかもしれない。
……ボーカルシンセはシンセのうちに入るのかって? まあま、音が出て、音が編集できればシンセですよ。定義なんてのはこうやって作ってけばいいんです。
Alter/Ego (Plogue)
配布元: https://www.plogue.com/products/alter-ego.html

なぜかロゴデザインがカタカナ。アイコンではアエと略記されることもある。
Alter/Egoは「VOCALOID亜種」的な位置づけに置かれることが多い歌声合成機で、実際そういう使い方もできます(そういう使い方がメインか?)。ただ、なぜ私が敢えてフリーシンセの範疇としてAlter/Egoを取り上げるかって、やはりVSTプラグインとして、リアルタイムに歌声を合成できるという点があるからなんです。(ほかにAlter/Egoの独自性はないの? 一応英文を読み上げることができる。一応。)
動作には別途サウンドバンクが必要なので注意です。現行で無料公開されているものはBONES(Tora Ouji), Marie Ork(Karoryfer Lecolds), NATA(vocallective)くらいかなあ。
1.概略
2.解説
Alter/Egoは普通のシンセとはまったく別のソフトなのでここの書き方に迷うんですが、今回は試しに小見出しをつけてみることにします。結果分量がかつてないほど肥大化しましたが、英語マニュアルを読むのがだるい方もいらっしゃると思うので少しはお役にたてればなと。
1) 歌詞について
基本的にはボイスバンクと呼ばれるサンプル集めたみたいなファイルを読み込んで音を出します。ボイスバンクは300MBくらいあったりなかったりするのでロードには少々かかります。で、歌詞入力欄にアルファベットまたはひらがなカタカナを入れるとその通りに喋ってくれると。素晴らしいですね。
歌詞は順次再生される仕組みなので、曲を途中から流すと歌詞がすべてズレてめちゃくちゃになりますが、実はMIDIノートの下から2オクターブがキースイッチとなっているので、一番下のMIDIノートを鳴らすと歌詞が最初の行に戻ります(下から2番目以降に関してもvice versa)。25行目以降へのジャンプはMIDI CC2番で指定してください。
基本的にはアルファベットかひらがなカタカナで歌詞を指定すると思うのですが、そのままだと発音とか文の切れ目とかがおかしくなるので、普通に歌わせるためには(歌詞から自動生成された)X-SAMPA記号の修正が必要になってきます。たとえばAlter/Egoは次の音節の子音を前もって発音しておく傾向にあるため(「めし」を区切って発音させると「めッス し」と言う)、これが不自然に聞こえた箇所には「め(me)」と「し(Si)」の間に#を挟む必要があります(me# Si)。むろん速いパッセージでは#を挟む必要はありません。
あるいは、「ぱん」のような「ん」を含むフレーズの場合、Alter/Egoはこれを1音節として認識します。2音節(厳密には2モーラ)で発音させるには、panと書かれたX-SAMPAをpa# nと修正すればよいです(代償として発声が途切れ途切れになるため、panのまま存置しつつ、レガートを打ち込み対応するのも一つの選択です)。
2) 打ち込みについて
マニュアルにもある通り、Alter/Egoを打ち込む際には、原則として音符同士の間隔を多少開けてやる必要があります。なぜなら、母音の後にある子音、すなわちaskのsk、trapのpなどは、キーリリース後にはじめて発音される仕様だからです。日本語は開音節ばかりなのであまり表沙汰にはなりませんが、前述した「めッス し」の「ッス」が発音されるのはキーリリース後だったりします。「ッス」はない方がよいこともありますが、早い発声では逆にないと不自然です。てことで、音符は多少ぶつ切りにして配置しましょうってことになります。
また、これもリアルタイム合成ゆえの仕様というか難点なのですが、音節頭の子音の種類によって、発声に要する時間(シンセでいうアタックタイム)が変わります。すなわち、歌詞の発音によって最適な音符の長さとか、タイミングとかは異なってきます。たとえば「go straight」と歌うとき、goのoが発音されるまでには有声破裂音/g/(非常に短い子音)1つだけしかありませんが、straightのaiが発音されるまでには/s/, /t/, /r/という子音3つを通りぬける必要があります。そのためMIDIノートを打ち込む際にも、straightの部分はgoよりも少し早めに入力する必要があるんですね。もっと言うと、askのskなどに対応するためにはリリースのタイミングも発音ごとに変えるべきですが、日本語にはaskのskみたいな音がありませんのでリリースタイミングはフィーリングで決めていいと思います。
3) 調声について
UI右上について、「再生速度」はどれくらい早口に歌うか、「音素の速さ」は二重母音などの移行の速さを指定します。「音素の速さ」は日本語歌詞では効果がわかりにくいです。
声質はCONTROLタブで指定します。
「フォルマント」はフォルマント周波数の高さを指定し、これを上げるとテープ早回ししたような声に、下げると低速再生したような声になります。
「フェミニニティ」はその名の通り上げると女性的な声になるパラメータですが、なんとも説明しがたい挙動をとるので試行錯誤が必要なエリアです。
「シズル音」というのはおそらく直訳によって生み出された得も言われぬ造語ですが、高い帯域での倍音量の多さを調整するパラメータです。下げるとハスキーになり、上げるとハッキリした発音になります。が、正直あんまり大きな効果が出せません。
「HF Gain」はよくわかりませんがおそらくただのEQです。「ブレス」はチップチューンっぽいノイズを加えるもので、隠し味的に使うものかと思われます。
「ベース波形」は謎の多いパラメータですが、要するに人間でいうところの声帯そのものの出音のことだと思われます。この波形に対し特殊なフィルターをかけることでAlter/Egoの声が作り出されるということでいいのでしょうかね? このWikipediaを読む限り、おそらく実在の音声合成用チップで使われた波形が収録されているってことなんでしょう。波形を変えるだけで結構雰囲気が(Lo-fi方向に)変わります。
「デューティ比」ではこの波形をゆがめ、質感を変えます。さすがにPWMはできません。「キーフォロー/デューティ比」を使うことで音の高さに応じて波形をゆがめられるようになり、そこそこ面白くはありますが、このパラメータがなぜ設置されたのか理由はわかりません。
「歯擦音」はsやshなどの摩擦音に起因するノイズの量を調整します。なお、厳密には(音声学用語としての)歯擦音に含まれない音も調整されます。
SETUP項の中にある「リリース」はその名の通りキーリリースの長さを設定するものですが、これを極端に短くすると語末の子音の発音が途切れます。自然に言葉を発音させるためにはある程度ロングリリースにする必要があるため、歯切れよく、かつ明瞭な歌わせ方をするのは難しいと思います(日本語歌詞のみ歌わせる場合は、日本語に語末子音がないためリリースはある程度短くできます、が、あまり短くしても不自然です)。
ほか、Stackからユニゾンができたり、SETUPのキーフォロー/再生速度を100%にすることで、サンプラーのように高い音を早回しにできたりします(しかしサンプラー模倣で最も重要と思われるキーフォロー/フォルマントのパラメータはないので、このパラメータの存在意義は謎です?)。
MODULATIONタブからはビブラートとMIDI経由モジュレーションの設定ができます。
VIBRATOコーナーにある「強さ(CC83)」というパラメータ名は誤訳で、本来はモジュレーションホイール(CC1)がVIBRATOに及ぼす影響力を決める部分です。
EXPRESSIONコーナーにある「発現レベル(CC88)」も誤訳で、これも本来はモジュレーションホイールがEXPRESSIONに与える影響力を決める部分です。また、「Siz.>Fmts/Gain」は上げることで、「シズル音への効果」および「Vel to Sizzle」の効果を「シズル音」の上昇ではなく「HF Gain」の上昇に変更することができるという説明の難しいパラメータです。
実践的には、声の印象を「フォルマント」「フェミニニティ」あたりで決めるのが音作りの最初になるのかなという感じ。質感はボイスバンク(もといサンプル)依存なのでほとんど変えられませんが、与える印象に関してはいくらでも変えようがあるかと。
また仕様上の制約なのか、Alter/Egoは、自然に、人間らしく歌わせることが結構難しいソフトという印象があります。中途半端にリアルな調声をするとVOCALOIDやUTAUあたりが上手いこと回避している「不気味の谷」に見事にハマってしまいそうな感じ。個人的にはある程度の機械らしさは割り切ってしまい、「しゃべるシンセサイザー」的な使い方をしたくなる気がします。
4) そのほか
前述のとおりAlter/Egoはポリフォニック対応です。UI上部のMONOボタンから切り替えます。ポリフォニックモードにおいては、歌詞の音節が一つ進むためにはすべてのノートがリリースされる必要があります。具体的に何が起こるのかは以下の動画を見ていただくとわかりやすいです。
各ボイスのTalkerバンクを選択することで、英文を普通に読み上げるようになります。しかもMIDIノートの音高から音程も指定可能、というのも内部的には「しゃべってるっぽい」音程にトランスポーズさせているだけだから。
読み上げに関しては英文のみ対応しています。無料かつライセンスがクリアな読み上げソフトって地味に貴重なので、世界のどこかにもしかしたらAlter/Egoを英文読み上げのために導入している人もいるのかもしれません。まあその程度ってことです。これも自然さを求めるよりは精度の低さを楽しむためのものかなあと。
誰も求めてない情報かもしれませんが、実はAlter/Egoにはマイクロチューニング機能があります! .sclファイルをドラッグアンドドロップし、ポリフォニックモードに変えると適用されます(モノフォニックモードでは12平均律に固定されます)。この情報、本当にネットのどこにも書いてないみたいなので私がここに書きます。俺がフロンティアだ
3.音
これにも小見出しつけることにしました。まったく、過去最長レビューになるなこれは。
1) 全般
敢えて乱暴な書き方をしますが、Alter/Egoは「人間が機械的な歌い方をする」ソフトであり、「機械が人間っぽく歌うソフト」とは違うと思います。Alter/Egoは発音(特に子音)のバリエーションが少なく、音声の補完も簡易的、しかもブレスノイズも機械的な音しか出ない、というように、自然な声にするには非常に手間がかかるソフトです。かといって、AquesToneや同社のChipspeechのように「いかにも機械」という音声でもありません。遠目で見ると人間そっくりだけど、動き方が明らかに地球由来の生物ではない……みたいなイメージ。
個人的には、一般大衆が素のAlter/Egoの声を聴いてポジティブな印象(かわいい、かっこいい、きれい、など)を持つとは思えなくて(ごめん)、むしろそれを逆手にとって不気味の谷の真ん中でタップダンスを踊る、的な世界の方が近くにある気がするんですね。なお、YouTubeとか探してるとたま~にリアルな(ボカロらしい、の意)歌わせ方ができている例も見えるんで、すべてこの限りでもないと思います、が。
ちなみに、はなから人工的な声を求める場合は、「ベース波形」をDefault以外のものにするとそれらしくなります。ブレスを加えるとか、思い切って妙な音域(高すぎるor低すぎる)で歌わせるのも手です。むろんすべてを中途半端な設定にして、不気味の谷まっしぐらな調声も面白いかもしれません。
2) BONES
Plogueとしてはこのバンクがデフォルトに近い位置づけらしいです。男声で、英語発音のほか日本語準拠の発音も可能(ただしネイティブ発音ではない)。
実はフェミニニティを70くらいまで上げて高音域で発音させると、時折初音ミクを思わせる声色になることがあります。が、一般に海外フォーラムにおいてBONESの高音域は、どうやらあまり評価されていないようで、この辺は歌詞の言語とかターゲットにする文化圏次第なのかなという感じ。
まあよくも悪くも癖のない、抑揚の薄い声ですので、個人的には機械的な雰囲気を前面に出して使いたい感があります。というか歌モノを作る予定がないのでこの辺なんとも言えないんですよね。
3) Marie Ork
それなりに容量のデカい女声バンク。英語発音のみ。デスメタルバンドで活躍中のボーカリストの声を収録したそうな。そのバンドの曲はここ(facebook)とかで聴けますよ。
一応Cleanボイス(普通の声)とGrowlボイス(デスボイスのこと)、Spaceボイス(デスボイスに無理やり音程をつけたもの)の3種類の声が使い分けられます、が、ヘヴィメタルのボーカルとしてMarie Orkを使うにはさすがに表情が不足している気はします。あとデスボイスをきちんと発声させるのが意外と難しく、Alter/Ego特有の質感も相まって「この世の終わりボイス」みたいなことになりやすいです。
CleanはCleanで全体的に抑揚が強い声のためAlter/Egoの仕様と微妙にマッチしない感があり、あまり速いフレーズでは不自然さが出ます。個人的には無理やり低域で歌わせたり、フォルマントを下げたり、あるいはロングトーン中心のメロディにしたりしてやった方が「らしい声」になるような。
GrowlやSpaceに関しても加工のしようによっては化ける気はします。ピッチシフターで音下げると割とそれっぽくなりますよ。多分。
全体的には、自然さを求めるならロングトーン、自然さを諦めるなら声ネタ的な使用に適しているのかなという印象でした。
4) NATA
現在Plogue公式からサポートされていないバンクのため知名度は高くありませんが、完成度が高く優等生的な出来の女声サウンドバンクです(ノンサポートとなった背景には利益配分をめぐる対立があったようですが、いちユーザーが気にする話でもないです。ボイスバンクに罪はありません)。
比較的おとなしい声色のバンクで、子音が強調されすぎないのでバックボーカルに向いている印象があります。私だったら暗めのレトロサウンドと合わせたい、が、こんなんは好みの問題ですね。無償サウンドバンクの中では一番使いやすい気はする。
4.使い勝手など
Plogueは比較的まともな製品を作る企業なので、おおむね作りの粗さとかは見受けられないです。しいて言えばマイクロチューニング適用時にもUIに何も変化がないことくらい。ただし、Alter/Egoは音源としてトリッキーな仕様が多く、かつ暗黙の了解とされている部分も多いので、やはりマニュアルは必読だと思います。
CPU負荷は低くはありませんが、内部でやっていることを思えばそう高くはありません。歌わないくせにもっと重いシンセはいくらでもあります。
5.わたし的な評価
おすすめ度: ★★★★★★★★★☆(9/10)
Alter/Egoは唯一無二と言っていいほどのスーパー個性派音源だと思います。良くも悪くも、ですが。
プラグインとしてリアルタイムで合成されることによる即興性と制約。歌声に留まらぬ活用を可能とするポリフォニックへの対応。そして何よりも、生々しい人間の声のサンプルに対し、ロボット的アプローチで挑むことで生まれた言いようもない不気味さ。現状、これらを兼ね備えたプラットフォームは、当たり前ですが、Alter/Ego以外には存在しません。
今存在するほとんどの楽器には、定石とされる奏法・用法があって、定番となったテクニックがいくつも存在しています。しかし、2020年の時点でAlter/Egoのリリースから5年が経過したものの、個人的にこの音源もとい楽器には、まだ開拓できる奏法、開拓できるテクニックがあるような気がします。
まあ裏を返せばプラットフォームとして未熟ってことなんですが、あまり使いやすい音源ではないよ、ということを承知の上で、それでもロマンを追い求めたいのならば、試しにこいつを導入し、格闘してみると、何か見えてくるものがあるかもしれませんし、ないかもしれません。だもんで評価点は高めにつけておくことにしました。少なくとも私は好きな音源です。
ラストに景気悪い話で締めるのもアレですが、どうやら現在Alter/Ego界隈は若干斜陽じみている雰囲気があるようで、これから界隈が拡大して対応ボイスバンクが増えていくかどうかは正直五分五分だと思ってます。
ともあれ、せっかくキリ番なので有名なやつ行きましょう有名なやつ。Plogueから出ているボーカルシンセプラグイン「Alter/Ego」です。VOCALOIDとかUTAUとかと違ってDAW上でプラグイン動作します。
……ボーカルシンセはシンセのうちに入るのかって? まあま、音が出て、音が編集できればシンセですよ。定義なんてのはこうやって作ってけばいいんです。
Alter/Ego (Plogue)
配布元: https://www.plogue.com/products/alter-ego.html

なぜかロゴデザインがカタカナ。アイコンではアエと略記されることもある。
Alter/Egoは「VOCALOID亜種」的な位置づけに置かれることが多い歌声合成機で、実際そういう使い方もできます(そういう使い方がメインか?)。ただ、なぜ私が敢えてフリーシンセの範疇としてAlter/Egoを取り上げるかって、やはりVSTプラグインとして、リアルタイムに歌声を合成できるという点があるからなんです。(ほかにAlter/Egoの独自性はないの? 一応英文を読み上げることができる。一応。)
動作には別途サウンドバンクが必要なので注意です。現行で無料公開されているものはBONES(Tora Ouji), Marie Ork(Karoryfer Lecolds), NATA(vocallective)くらいかなあ。
1.概略
- 歌詞を入力するともれなく歌います
- プラグインとして動作、ポリフォニックにも対応
- 英語だけでなく日本語にも(一応)対応
- 位置づけとしては自然な歌声とロボットボイスの中間
- 発声にはそれなりに癖がある(事後加工の仕方次第?)
- 多分マニュアルは必読(ここから読める)
2.解説
Alter/Egoは普通のシンセとはまったく別のソフトなのでここの書き方に迷うんですが、今回は試しに小見出しをつけてみることにします。結果分量がかつてないほど肥大化しましたが、英語マニュアルを読むのがだるい方もいらっしゃると思うので少しはお役にたてればなと。
1) 歌詞について
基本的にはボイスバンクと呼ばれるサンプル集めたみたいなファイルを読み込んで音を出します。ボイスバンクは300MBくらいあったりなかったりするのでロードには少々かかります。で、歌詞入力欄にアルファベットまたはひらがなカタカナを入れるとその通りに喋ってくれると。素晴らしいですね。
歌詞は順次再生される仕組みなので、曲を途中から流すと歌詞がすべてズレてめちゃくちゃになりますが、実はMIDIノートの下から2オクターブがキースイッチとなっているので、一番下のMIDIノートを鳴らすと歌詞が最初の行に戻ります(下から2番目以降に関してもvice versa)。25行目以降へのジャンプはMIDI CC2番で指定してください。
基本的にはアルファベットかひらがなカタカナで歌詞を指定すると思うのですが、そのままだと発音とか文の切れ目とかがおかしくなるので、普通に歌わせるためには(歌詞から自動生成された)X-SAMPA記号の修正が必要になってきます。たとえばAlter/Egoは次の音節の子音を前もって発音しておく傾向にあるため(「めし」を区切って発音させると「めッス し」と言う)、これが不自然に聞こえた箇所には「め(me)」と「し(Si)」の間に#を挟む必要があります(me# Si)。むろん速いパッセージでは#を挟む必要はありません。
あるいは、「ぱん」のような「ん」を含むフレーズの場合、Alter/Egoはこれを1音節として認識します。2音節(厳密には2モーラ)で発音させるには、panと書かれたX-SAMPAをpa# nと修正すればよいです(代償として発声が途切れ途切れになるため、panのまま存置しつつ、レガートを打ち込み対応するのも一つの選択です)。
2) 打ち込みについて
マニュアルにもある通り、Alter/Egoを打ち込む際には、原則として音符同士の間隔を多少開けてやる必要があります。なぜなら、母音の後にある子音、すなわちaskのsk、trapのpなどは、キーリリース後にはじめて発音される仕様だからです。日本語は開音節ばかりなのであまり表沙汰にはなりませんが、前述した「めッス し」の「ッス」が発音されるのはキーリリース後だったりします。「ッス」はない方がよいこともありますが、早い発声では逆にないと不自然です。てことで、音符は多少ぶつ切りにして配置しましょうってことになります。
また、これもリアルタイム合成ゆえの仕様というか難点なのですが、音節頭の子音の種類によって、発声に要する時間(シンセでいうアタックタイム)が変わります。すなわち、歌詞の発音によって最適な音符の長さとか、タイミングとかは異なってきます。たとえば「go straight」と歌うとき、goのoが発音されるまでには有声破裂音/g/(非常に短い子音)1つだけしかありませんが、straightのaiが発音されるまでには/s/, /t/, /r/という子音3つを通りぬける必要があります。そのためMIDIノートを打ち込む際にも、straightの部分はgoよりも少し早めに入力する必要があるんですね。もっと言うと、askのskなどに対応するためにはリリースのタイミングも発音ごとに変えるべきですが、日本語にはaskのskみたいな音がありませんのでリリースタイミングはフィーリングで決めていいと思います。
3) 調声について
UI右上について、「再生速度」はどれくらい早口に歌うか、「音素の速さ」は二重母音などの移行の速さを指定します。「音素の速さ」は日本語歌詞では効果がわかりにくいです。
声質はCONTROLタブで指定します。
「フォルマント」はフォルマント周波数の高さを指定し、これを上げるとテープ早回ししたような声に、下げると低速再生したような声になります。
「フェミニニティ」はその名の通り上げると女性的な声になるパラメータですが、なんとも説明しがたい挙動をとるので試行錯誤が必要なエリアです。
「シズル音」というのはおそらく直訳によって生み出された得も言われぬ造語ですが、高い帯域での倍音量の多さを調整するパラメータです。下げるとハスキーになり、上げるとハッキリした発音になります。が、正直あんまり大きな効果が出せません。
「HF Gain」はよくわかりませんがおそらくただのEQです。「ブレス」はチップチューンっぽいノイズを加えるもので、隠し味的に使うものかと思われます。
「ベース波形」は謎の多いパラメータですが、要するに人間でいうところの声帯そのものの出音のことだと思われます。この波形に対し特殊なフィルターをかけることでAlter/Egoの声が作り出されるということでいいのでしょうかね? このWikipediaを読む限り、おそらく実在の音声合成用チップで使われた波形が収録されているってことなんでしょう。波形を変えるだけで結構雰囲気が(Lo-fi方向に)変わります。
「デューティ比」ではこの波形をゆがめ、質感を変えます。さすがにPWMはできません。「キーフォロー/デューティ比」を使うことで音の高さに応じて波形をゆがめられるようになり、そこそこ面白くはありますが、このパラメータがなぜ設置されたのか理由はわかりません。
「歯擦音」はsやshなどの摩擦音に起因するノイズの量を調整します。なお、厳密には(音声学用語としての)歯擦音に含まれない音も調整されます。
SETUP項の中にある「リリース」はその名の通りキーリリースの長さを設定するものですが、これを極端に短くすると語末の子音の発音が途切れます。自然に言葉を発音させるためにはある程度ロングリリースにする必要があるため、歯切れよく、かつ明瞭な歌わせ方をするのは難しいと思います(日本語歌詞のみ歌わせる場合は、日本語に語末子音がないためリリースはある程度短くできます、が、あまり短くしても不自然です)。
ほか、Stackからユニゾンができたり、SETUPのキーフォロー/再生速度を100%にすることで、サンプラーのように高い音を早回しにできたりします(しかしサンプラー模倣で最も重要と思われるキーフォロー/フォルマントのパラメータはないので、このパラメータの存在意義は謎です?)。
MODULATIONタブからはビブラートとMIDI経由モジュレーションの設定ができます。
VIBRATOコーナーにある「強さ(CC83)」というパラメータ名は誤訳で、本来はモジュレーションホイール(CC1)がVIBRATOに及ぼす影響力を決める部分です。
EXPRESSIONコーナーにある「発現レベル(CC88)」も誤訳で、これも本来はモジュレーションホイールがEXPRESSIONに与える影響力を決める部分です。また、「Siz.>Fmts/Gain」は上げることで、「シズル音への効果」および「Vel to Sizzle」の効果を「シズル音」の上昇ではなく「HF Gain」の上昇に変更することができるという説明の難しいパラメータです。
実践的には、声の印象を「フォルマント」「フェミニニティ」あたりで決めるのが音作りの最初になるのかなという感じ。質感はボイスバンク(もといサンプル)依存なのでほとんど変えられませんが、与える印象に関してはいくらでも変えようがあるかと。
また仕様上の制約なのか、Alter/Egoは、自然に、人間らしく歌わせることが結構難しいソフトという印象があります。中途半端にリアルな調声をするとVOCALOIDやUTAUあたりが上手いこと回避している「不気味の谷」に見事にハマってしまいそうな感じ。個人的にはある程度の機械らしさは割り切ってしまい、「しゃべるシンセサイザー」的な使い方をしたくなる気がします。
4) そのほか
前述のとおりAlter/Egoはポリフォニック対応です。UI上部のMONOボタンから切り替えます。ポリフォニックモードにおいては、歌詞の音節が一つ進むためにはすべてのノートがリリースされる必要があります。具体的に何が起こるのかは以下の動画を見ていただくとわかりやすいです。
RykSeb@硫化西部@RykSeb2020/09/22 04:06:23
各ボイスのTalkerバンクを選択することで、英文を普通に読み上げるようになります。しかもMIDIノートの音高から音程も指定可能、というのも内部的には「しゃべってるっぽい」音程にトランスポーズさせているだけだから。
読み上げに関しては英文のみ対応しています。無料かつライセンスがクリアな読み上げソフトって地味に貴重なので、世界のどこかにもしかしたらAlter/Egoを英文読み上げのために導入している人もいるのかもしれません。まあその程度ってことです。これも自然さを求めるよりは精度の低さを楽しむためのものかなあと。
誰も求めてない情報かもしれませんが、実はAlter/Egoにはマイクロチューニング機能があります! .sclファイルをドラッグアンドドロップし、ポリフォニックモードに変えると適用されます(モノフォニックモードでは12平均律に固定されます)。この情報、本当にネットのどこにも書いてないみたいなので私がここに書きます。俺がフロンティアだ
3.音
これにも小見出しつけることにしました。まったく、過去最長レビューになるなこれは。
1) 全般
敢えて乱暴な書き方をしますが、Alter/Egoは「人間が機械的な歌い方をする」ソフトであり、「機械が人間っぽく歌うソフト」とは違うと思います。Alter/Egoは発音(特に子音)のバリエーションが少なく、音声の補完も簡易的、しかもブレスノイズも機械的な音しか出ない、というように、自然な声にするには非常に手間がかかるソフトです。かといって、AquesToneや同社のChipspeechのように「いかにも機械」という音声でもありません。遠目で見ると人間そっくりだけど、動き方が明らかに地球由来の生物ではない……みたいなイメージ。
個人的には、一般大衆が素のAlter/Egoの声を聴いてポジティブな印象(かわいい、かっこいい、きれい、など)を持つとは思えなくて(ごめん)、むしろそれを逆手にとって不気味の谷の真ん中でタップダンスを踊る、的な世界の方が近くにある気がするんですね。なお、YouTubeとか探してるとたま~にリアルな(ボカロらしい、の意)歌わせ方ができている例も見えるんで、すべてこの限りでもないと思います、が。
ちなみに、はなから人工的な声を求める場合は、「ベース波形」をDefault以外のものにするとそれらしくなります。ブレスを加えるとか、思い切って妙な音域(高すぎるor低すぎる)で歌わせるのも手です。むろんすべてを中途半端な設定にして、不気味の谷まっしぐらな調声も面白いかもしれません。
2) BONES
Plogueとしてはこのバンクがデフォルトに近い位置づけらしいです。男声で、英語発音のほか日本語準拠の発音も可能(ただしネイティブ発音ではない)。
実はフェミニニティを70くらいまで上げて高音域で発音させると、時折初音ミクを思わせる声色になることがあります。が、一般に海外フォーラムにおいてBONESの高音域は、どうやらあまり評価されていないようで、この辺は歌詞の言語とかターゲットにする文化圏次第なのかなという感じ。
まあよくも悪くも癖のない、抑揚の薄い声ですので、個人的には機械的な雰囲気を前面に出して使いたい感があります。というか歌モノを作る予定がないのでこの辺なんとも言えないんですよね。
3) Marie Ork
それなりに容量のデカい女声バンク。英語発音のみ。デスメタルバンドで活躍中のボーカリストの声を収録したそうな。そのバンドの曲はここ(facebook)とかで聴けますよ。
一応Cleanボイス(普通の声)とGrowlボイス(デスボイスのこと)、Spaceボイス(デスボイスに無理やり音程をつけたもの)の3種類の声が使い分けられます、が、ヘヴィメタルのボーカルとしてMarie Orkを使うにはさすがに表情が不足している気はします。あとデスボイスをきちんと発声させるのが意外と難しく、Alter/Ego特有の質感も相まって「この世の終わりボイス」みたいなことになりやすいです。
CleanはCleanで全体的に抑揚が強い声のためAlter/Egoの仕様と微妙にマッチしない感があり、あまり速いフレーズでは不自然さが出ます。個人的には無理やり低域で歌わせたり、フォルマントを下げたり、あるいはロングトーン中心のメロディにしたりしてやった方が「らしい声」になるような。
GrowlやSpaceに関しても加工のしようによっては化ける気はします。ピッチシフターで音下げると割とそれっぽくなりますよ。多分。
全体的には、自然さを求めるならロングトーン、自然さを諦めるなら声ネタ的な使用に適しているのかなという印象でした。
4) NATA
現在Plogue公式からサポートされていないバンクのため知名度は高くありませんが、完成度が高く優等生的な出来の女声サウンドバンクです(ノンサポートとなった背景には利益配分をめぐる対立があったようですが、いちユーザーが気にする話でもないです。ボイスバンクに罪はありません)。
比較的おとなしい声色のバンクで、子音が強調されすぎないのでバックボーカルに向いている印象があります。私だったら暗めのレトロサウンドと合わせたい、が、こんなんは好みの問題ですね。無償サウンドバンクの中では一番使いやすい気はする。
4.使い勝手など
Plogueは比較的まともな製品を作る企業なので、おおむね作りの粗さとかは見受けられないです。しいて言えばマイクロチューニング適用時にもUIに何も変化がないことくらい。ただし、Alter/Egoは音源としてトリッキーな仕様が多く、かつ暗黙の了解とされている部分も多いので、やはりマニュアルは必読だと思います。
CPU負荷は低くはありませんが、内部でやっていることを思えばそう高くはありません。歌わないくせにもっと重いシンセはいくらでもあります。
5.わたし的な評価
おすすめ度: ★★★★★★★★★☆(9/10)
Alter/Egoは唯一無二と言っていいほどのスーパー個性派音源だと思います。良くも悪くも、ですが。
プラグインとしてリアルタイムで合成されることによる即興性と制約。歌声に留まらぬ活用を可能とするポリフォニックへの対応。そして何よりも、生々しい人間の声のサンプルに対し、ロボット的アプローチで挑むことで生まれた言いようもない不気味さ。現状、これらを兼ね備えたプラットフォームは、当たり前ですが、Alter/Ego以外には存在しません。
今存在するほとんどの楽器には、定石とされる奏法・用法があって、定番となったテクニックがいくつも存在しています。しかし、2020年の時点でAlter/Egoのリリースから5年が経過したものの、個人的にこの音源もとい楽器には、まだ開拓できる奏法、開拓できるテクニックがあるような気がします。
まあ裏を返せばプラットフォームとして未熟ってことなんですが、あまり使いやすい音源ではないよ、ということを承知の上で、それでもロマンを追い求めたいのならば、試しにこいつを導入し、格闘してみると、何か見えてくるものがあるかもしれませんし、ないかもしれません。だもんで評価点は高めにつけておくことにしました。少なくとも私は好きな音源です。
ラストに景気悪い話で締めるのもアレですが、どうやら現在Alter/Ego界隈は若干斜陽じみている雰囲気があるようで、これから界隈が拡大して対応ボイスバンクが増えていくかどうかは正直五分五分だと思ってます。

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