久々にフリープラグインを眺めてたところ、面白そうなものが出ていたので紹介します。

ついに出てきた「AIがあなたの思い描いたプラグインを作る」という触れ込みのVSTプラグインです。まずはその使い方から紹介しましょう。

使い方

1. 作るプラグインを決める

まずはあらかじめメモ帳等を開いておいて、作りたいプラグインのアイデアをテキストに起こしておきます。
なるべく具体的に書いたほうがAIの反応が良いようです。

2. プロンプトを作る

プラグインを立ち上げて、右上にある「LAB」というボタンを押すと、以下の画面が表示されます。画面の左半分に表示されているのがCmajorのコードです。(CmajorはDSP分野の開発用のプログラミング言語です)
スクリーンショット 2026-02-15 204433
ここで、「Copy AI Prompt」ボタンを押すと定型文がコピーされます。
その定型文を適当なテキストエディタ(メモ帳など)に貼り付け、定型文の前(おそらく)に、手順1で書いたアイデアをコピペします。

3. AIにコーディングさせて動かす

プロンプトが出来たら、普通にChatGPTとかに貼り付けて、コーディングしてもらいます。
出力されたCmajorのコードをAmorphの画面の左半分にコピペして「COMPILE」ボタンを押します。

コードに文法エラーがなければ、COMPILEボタンを押した次の瞬間、動きます。
(レアケースですが、突然巨大なDC信号が流れる可能性もゼロではないので防衛策は講じる必要があります)

4. デバッグ

コードに文法エラーがあった場合は音が出ず、その代わりに赤い「Copy Error」ボタンが出現します。人間がやることは、「Copy Error」ボタンを押して、それをそのままChatGPTとかにペーストして修正させるだけです。

一方で、「エラーは出ないけど、思ってた動きと違う」という場合も多いと思います。こういう場合は少し面倒で、もちろん修正自体はAIにやらせれば良いのですが、その前段階、すなわち「思い通りに動くかどうか」レベルの判断は人間の側で行ってやる必要があります。

また、何を直してほしいかは極力具体的に言ったほうが指示の通りが良いです。

5. 完成

…てな感じで、大体20分くらい試行錯誤した結果が次の動画です。リバーブだけは外付けですが(すばらしいフリーリバーブのTAL-Reverb 4)シンセサイザーはフルスクラッチです。


既存のシンセサイザーではなかなか難しい、「非整数倍音間の滑らかなモーフィング音色」が簡単にできるシンセサイザーが作れました(動画0:25以降)。無料のGemini 3(高速モード)にたった4回要望を投げただけです。まぁ、ボイスのスティーリング周りにバグは残ってるのですが、もう一回AIに要望を投げれば多分治るでしょう。でも自分の曲に使う分には、この程度のバグは無視できます。

いずれにせよ、機能を削ぎ落したコンパクトなシンセであれば、Claude Codeなんかに課金しなくても生成できるようになった、ということが実感いただけると思います。

所感

注意深い読者であれば、Amorphそれ自体に何一つ技術的な新規性が無いことに気づくでしょう。これは単なるDAW上で動くCmajorの開発実行環境に過ぎません。結局のところ、Amorphの価値は新規性ではなく、「とっつきやすさ」の方にあると思っています。

DAW上でプラグインを開発実行できるソフト自体は、昔からフリー・商用問わずよくありました。代表的なものといえばMax for Live(M4L)やReaktor、フリーではplugdataや、ReaperのJSFXもこれに該当するでしょう。どれも本当に素晴らしいソフトです。

ただし、私もplugdataとかを少し触った事があるのですが、あれは正直、作曲中に触るには複雑すぎると思うのですね。アイデアを試作し始めてから、実際に音が出るまでのプロセスの長いこと。数時間試行錯誤しながらデバイスを作ってみて、いざ音を出してみたら「なんか違うな……」となってお蔵入りになる世界だと思います。

だからこそPureDataのスペシャリストが生まれ、面白いプラグインがどんどん生まれてきた訳でもあるのですが、ただ作曲してるだけの人間が使いこなせるものとは正直思えない。その点だとReaktorが一番とっつきやすいかもしれませんが、あれは買うと高い。

一方でAmorphの解決策はシンプルです。「最初から既存のプログラミング言語をバイブコーディング(AIにコードを書かせる)すれば楽なのでは?」UIの表示も機能も最低限で、独自言語じゃなくて既存の言語の実行環境を用意するだけ。

バイブコーディングの何が良いかって、AIに指示を出すために「仕様を言語化しないといけない」という点だと思います。私なんかはシンセの音作りの感覚でPureDataを適当に触ってしまいますが、そんないい加減な作業で「使える」ソフトが出来るほど、世の中甘くは無いのですね(笑)。バイブコーディングならば、人間はソースコードの書き方ではなく「何が欲しいか」考えることに集中できるし、そのほうが有用なモノが出来る可能性は高まると思います。

また、開発言語にCmajorが選ばれているのも、よい点だと思います。
1. Pure Dataと違ってテキストベースなので、AIチャットボットにとっては得意分野
2. Cmajorの開発環境さえ整えれば、作ったコードを最終的にVSTプラグインとしてビルドすることも可能
Cmajorは、プラグイン開発フレームワークの中では比較的ライセンスの制約が緩めです。ユーザー側にとってもメリットが大きい方式だと思うのですね。

当然、VSCodeに本格的なCmajor開発環境を導入すれば、Amorphと似たようなことは出来ます。ですがAmorphが面白いのは、書いたコードがVSCodeのプロジェクトではなく、DAWと紐づけされたVSTプリセットとして保存できることではないでしょうか。要するに開発ではなく、作曲をターゲットにしていると言えます。

まとめると、類似ツールと比べたときのAmorphの利点は以下の4点であるといえます。
  • 作曲中に触れるくらい手間がかからない
  • 人間が仕様決定に集中できる
  • 最終的にVSTプラグインとして発表できるなど拡張性もある
  • DAW目線で開発できる
ある意味では、開発者ではなく作曲者がプラグインを自作できる「史上初」のプラグインなのかもしれません。

マジで余談

これは本当に余談ですが、なぜ私がAIに加算合成シンセを生成させたのかクドクド説明します。

加算合成は非常に自由度の高い合成方式ですが、加算合成で音を大きく変化させるためには膨大な数のパラメータを動かすしかありません。それでは非現実的なので、マクロパラメータを作って管理しやすくするのですが、ここでパラメータに汎用性を持たせてしまうと本来の自由度が削がれ、ウェーブテーブル式と役目が被ってしまう(AIR LoomやReaktor Razorなどを念頭に語っている)。

したがって、加算合成に独自の役割を持たせるために重要なのが、「汎用性を捨てる」という考え方ではと思うのですが、当然ながら汎用性に乏しいソフトウェアは採算性が無く、商業ベースに乗る可能性は低いわけです。

AIは、コーディングのコストを劇的に低下させました。現状のAIは決して「高品質な」ソフトを量産できるわけではありませんが、その速さゆえに、「汎用性の無いアルゴリズムを使い捨てる」事が可能になった事には間違いありません。

ですから、汎用性を捨てた加算合成シンセを作るうえで、使い捨てのアルゴリズムを一瞬で生成してくれるAIはとても相性が良い。ポテンシャルが高いのに汎用性・コストのジレンマから主流になれなかった加算合成方式は、AIコーディングの時代にこそ脚光を浴びることになるのではないでしょうか。

結論

ハッキリ言って、Amorphには大したことはできないと思います。外部のファイル(サンプル含む)に一切アクセスもできませんし、UIの自由度も無いに等しい

バイブコーディングにも限界があって、どこかの段階でAIがバグを埋め込むスピードがバグを見つける人間のスピードを上回るため、あまり複雑なプラグインは実装困難だと思います。

世間で出回っているプラグインというのは、当然ながらよく考えられて、膨大な手間をもって作られています。ですから、Amorphがほんの一部でも既製品を超えるものを作ろうと思ったら、よほど斬新なアイデアを用意して勝負する必要があるでしょう。

ただ、まあAmorphで思った通りのプラグインが出来て、音が出て、それってとても楽しいんですよね。良い音かどうか、使える音かどうかをいったん抜きにして、「こういう音を聴いてみたい」という願望に応えてくれる環境であることは間違いないと思います。それって、多分昔の人が巨大なモジュラーシンセサイザーを作ってまで探究した領域にも近いのではないでしょうか。

ということで、まぁAIが流行して面白くねえなって気持ちは分かるんですが、余談の節に書いた通り、現実にはAIによって可能になった表現は有ると思うのですね。

もちろんアイデアを出すことと、それを優れた音楽に落とし込むことの難易度は全く異なるのですが、アイデアを出す「楽しみ」を最大化するツールとしては、Amorphは侮れないツールだと感じています。