フリーでオープンソースのソフトウェア・シンセサイザーであるSurge XT(旧称: Surge)は、日本でも広く知られつつあります。
最近は詳しい人がいくつかレビュー記事を書いていて、かなり高い次元で評価されるようになったと思います。しかし、Surgeを実際に制作で使う方がどの程度いるのかはよく分かりません。結局使ってない人のほうが多いんじゃないでしょうか。そんな現状(私の想像ですけど)を憂い、なんとかSurge XTの魅力が伝わればという思いで私はこの記事を書いています。
私はここ3年くらいSurge XTをメインのシンセサイザーとして使っており、全世界の90%のトラックメイカーよりもこのシンセを贔屓できる自信があります。今回は以下の3部構成で紹介していきます。
- Surgeの魅力
- Surgeの弱点
- Surgeが活躍する場とは?
1. Surgeの魅力
[魅力点1 超多機能なLFOが12個]
Surgeには、ボイスごとのLFOが6個、ボイス全体で共有されるLFOが6個の、合計12個のLFOがあります。
LFOという名前ですが、実際にはエンベロープとLFOを合体させたようなもので、追加のADSRとしても使えるし、LFOのフェードイン・アウトも自由自在。さらにステップシーケンサー機能や、流行りのMSEG(自由に描けるLFO)にも対応しています。LFOの出力もしっかり512Hzまで対応しており、モジュラーっぽい音作りにも対応。非常に自由度が高いです。
さらに言えば、LFOの動作をLuaスクリプトで定義できるようにもなっていて、完全オリジナルアルゴリズムのLFOも作れちゃう。どこまでこだわるかは奏者次第ですが、出来ないことはおおよそありません。
[魅力点2 アナログ、デジタル、果てはモジュラーサウンドまで一手に対応する音色の多彩さ]
オープンソース化後のSurgeは、東西のシンセマニアたちによって機能が追加されまくっています。代表的なのが、アナログモデルのフィルター群である「Vintage Ladder」「OB-Xd」「Diode」「K35」でしょう。それぞれラダーフィルター、SVF、TB-303のダイオードラダーフィルター、MS-20前期型のサレンキーフィルターが元ネタと思われます。

しかしこれでもまだ序の口。「S&H」や「Comb」など特殊なフィルターも搭載していますし、他のシンセにはほとんど見られない「Cutoff Warp」「Resonance Warp」「Tri-pole」というフィルターは非常に不安定な特性を持ち、少しのフィードバックを与えるだけでモジュラーシンセも霞む強烈なノイズサウンドを放ちます。
フィルター一つとってもマニアックですが、オシレーターもまた豊富。高音質な「Modern」は文字通り何にでも使えますし、「FM2」「FM3」でFM合成も可能。「Wavetable」ではSerum形式のウェーブテーブル(.wav)の読み込みにも対応しますし、また、「Twist」は有名なモジュラーシンセのオシレーターであるMutable Instruments Plaitsの移植です。
[魅力点3 統一感があり学習コストの低いGUI]
GUIが独特なので好みが分かれそうですが、左から右に信号が流れていくフローが視覚的に理解しやすいのと、全体的に統一感があり一覧性も高いことから、慣れれば使いこなしやすいと感じます。また、あらゆるコントロールが、回転ノブではなくスライダーで描画されているのも、個人的には視認性が良いので好みです。
モジュレーションの割り当ては、いったん割り当てモードに入る仕組みになっています。この点、モードレスで直接ドラッグドロップできるVitalのような素早さはありませんが、SurgeはSurgeでドラッグアンドドロップで割り当てられますし、ソースを右クリックしても、宛先スライダーを右クリックしてもモジュレーションを編集可能なので、この辺りの操作性は十分良いと思います。コンセプト的にはPigmentsにも近いです。


[魅力点4 キャラが薄いのに存在感がある名脇役なサウンド]
Surgeの出音ははっきり言って地味ですし、クリーンでもありません。しかし、その分低音の量感がしっかりしていて、音にパンチと温かみがあります。ですので、アレンジでは目立ちすぎないポジションに立って、さりげなく音の厚みを増す使い方に向いています。有名フリーシンセのVitalとは対照的なサウンドキャラクターを持つので、組み合わせて使うのもアリです。
[魅力点5 高機能チューニングエディタを内蔵した現状唯一?のソフトシンセ]
世の中にはいまだに自由なチューニングに調律できない音源も多いようですが、SurgeはScalaを直接打ち込んだり、n平均律を自動生成したり、各音程のインターバルを編集したりできます。音源内の機能だけで、ここまで詳細にマイクロチューニングの編集ができる音源は他に無いでしょう。


なお、MTS-ESPのサーバー機能にも対応しているので、Surge内で作成した音律でほかのMTS-ESP対応音源を鳴らすことも可能です。
Surgeの弱点
[弱点1 プリセットブラウザがね……]
Surgeはパッチの検索性がかなり悪いです。3000以上にも及ぶパッチが作者別にフォルダ分けされているため、どこに何があるのかすら分かりません。使いやすい音色も使いにくい音色もバラバラに入っているので、気に入った音色はFavoriteカテゴリに入れていきましょう。それしかないです。一応虫眼鏡のボタンを押して「CATEGORY=Leads」などと検索することで、フォルダを横断してプリセットを検索することはできますが……。

なお、プリセット音色自体も、数は多いですが練りこまれたものは少なめです。古めかしい音色のほうが多いですね。
[弱点2 サウンドに華が無さすぎる]
前述しましたが、派手な音は出にくいです。多機能さに任せて高音域を盛ってもなんか汚くなってしまいがち。ほかのシンセに任せるべきだと思います。
また、オシレーターユニゾンや空間表現も、可能ではありますが苦手で、音を綺麗に横に広げるためには、エフェクターに頼る必要が出てきます。総じて壮大なリードや透明感あるパッドサウンドにも向いておらず、結果としてSurgeはかなり用途を選ぶシンセになっています。
[弱点3 多機能なシンセにはよくあることだが、表からは見えない機能がある]
Surgeは、多くの機能をコンパクトなスペースにまとめるため、右クリックメニュー部分に押し込められた機能が多くあります。あらゆるコントロールやボタンを右クリックしてみましょう。大体半分くらいの確率で、隠れていた機能が表示されるはずです。
たとえば次のような機能が……。
- オシレーターピッチを7オクターブにわたって変調する
- オシロスコープを表示する
- LFO速度をBPMに同期させる
- ウェーブテーブルの連続モーフィングを無効に
- 「K35」フィルターをMS-20のように歪ませる
総括: Surgeが活躍する場とは?
音のキャラクター的にはドラムサウンドや、他音源とレイヤーする用途に向いていると考えています。特に、レイヤーにおいては、ほかの音色の個性を生かしたまま、音だけをSurgeで分厚くすることが可能で、他の音源では代替しにくい部分かと思います。また、豊富な変調機能のおかげで、効果音の作成にも活躍することでしょう。一方で、透明感あるサウンドには期待できません。
Surgeはいわゆるモジュラーシンセではありませんが、かなりモジュラーに近い音が出せるシンセサイザーです。モジュラーシンセと比べるとワークフローが格段に速いこともポイントで、モジュラーよりもMIDI寄りの手法で、モジュラーっぽいことをやる上で役立つと思います。CPU負荷もVCV Rackとかより低めですし。
Surgeはフリーソフトですが、初心者よりむしろシンセサイザーにこだわる人、音作りにこだわる人にこそおすすめしたいです。その個性的なサウンドをうまく扱おうと四苦八苦するうちに、やがて自分のサウンドが生まれてくるんじゃないかと思います。
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