追記:2025年年末セールで無料配布されています。これのiPad版は600円で買えてデスクトップ版とプリセット同期ができる超便利アイテムなので、iPadを持っている方は本当に貰ったほうが良いと思います。


まあ今更感あるんですが入手したのでレビューです。
別にお金を出して買ったわけではなく、KV331 Audioのメルマガをずっと購読していたところクーポンがもらえて、すでにSynthMaster2を持っていたのでクロスグレードが効いて、しかもセール期間中だったので結果$0で購入できたという話です。こんなことあるんだ。

名前的に分かりにくいんですが、SynthMaster2が最初にあって、その簡易版として登場したのがSynthMaster Oneです。SynthMaster2や、その後継の3と比べると、OneはGUIの一覧性に配慮されており、直観的に使えるというメリットがあります。

まあ、新規で買う場合も、セールを狙えば$29程度で手に入ります。お手頃価格で実用性が高いということで、有名なソフトウェア・シンセサイザーですね。この価格帯でまともに競合できるのはThornくらいでは?

1. 概要
  • オーソドックスなウェーブテーブル+減算式シンセサイザー
  • 現代のダンスミュージックに特化した、実用性高いプリセット
  • 機能的にはSynthMaster 2 / 3の下位互換に近いが、まあモノとしては良い
  • 安いのに実用的。これに尽きる
2. インターフェース・操作感
 辛口に言えば中の下です。私の場合、SynthMaster3を持ってるせいもありますが、GUIのせいでOneに手が伸びていない面もあります。

 一部のつまみやボタンが微妙に小さいとか、画面のデカさに大して文字のフォントが小さいとか、つまみのインジケーターが小さいとか、パッと見の印象よりも視認性がよくありません。使いにくい訳ではないのですが、まあ普通です。
スクリーンショット 2025-06-03 232307

 スキンもいくつか用意されてますが、一部のスキンでは特定のボタンが表示されない(Whiteスキンにおけるエンベロープタイプ選択など)、という単純な不具合が数年放置されています。その分プリセットの質と安さに振ってると思えば贅沢は言えませんが、一応商用製品なのでもう少しケアが欲しいところ。

3. 音質
 絶対的な解像度では平凡ですが、「ハードウェアっぽい」というべきでしょうか。SynthMaster系列特有の、剛健な存在感のある音です。悪く言えば解像度が粗い音、好意的に言えば「存在感があり、良く通る」音質と感じています。

 アナログシミュとして使うには再現度があまり高くなく、また、最新のシンセのようなパツパツの透明感や、音色に大きな変化を持たせる系の表現もやや苦手に思われます(Massive Xなどとは対照的)。総じて「厚みのある音を出す」という一点において輝くシンセだなという印象でした。これだけでも使える場面はそこそこあると思います。

 フィルターについては割と良好です。入力ゲインを上げると歪みますが、ヴァーチャルアナログと比べると少し硬い歪み方です。アナログだと「とりあえず歪ませる」で良い音になったりするのですが、SynthMaster Oneをそういう使い方をしてもあまり成功しない印象はあります。

 エンベロープは指数関数的な曲線を描き、タイトです。全体的に使いやすい挙動だと思います。
 全体的に単音の存在感や明快さに長けたキャラなので、そういうジャンルとか場面では活躍しそうな感じがします。

4. プリセット
 これは優秀でしょう。10000円を超える定番級シンセであれば良いプリセットを備えているのは当たり前でしょうが、しかしこの価格帯でこの実用性は相当良いような……。全体的に華があり、ハズレが少なく、実際に楽曲でメイン運用できるような音色もちょくちょくあります。プリセットの平均点は、正直SynthMaster 2より高いと思います。(SynthMaster2のほうがプリセットの質にバラつきがあります)

 また、後述する通りSynthMaster OneのLFO系統は至極シンプルで、全体的なオーソドックスな減算式アプローチをとっているため、プリセットにもそういう実直なパッチが多いです。これは複雑なパッチが多いSynthMaster 2や、他社のシンセ(真っ先に思い浮かぶのがArturia Pigments)とは対照的です。

 そして、実はこれってSynthMaster Oneならではの利点だと思うんですね。とりあえず適当に起動して、適当に音を選んで使う、という使い方がやりやすいです。作曲中は悠長に音を選んでいられないでしょうから、音がイメージに近づくまでの時間が早くなる、と捉えれば、魅力に感じる方もいらっしゃるでしょう。

 また、高品質なプリセットはどれも比較的基礎的なテクニックで作られたものばかりです。SynthMaster OneのGUIは一覧性が良いので、プリセットを一つずつ鳴らしていくだけで、「この音ってこうオペレーションすれば出せるんだ」という発見がたくさん得られました。学習用シンセとしても良好な感触です。

5. 機能
 全体的にはSynthMaster 2や3のほぼ下位互換です。

 オシレータはウェーブテーブルです。波形にハードシンクやベンドなど追加処理を加えることもできますが、特徴的な機能といえばまあそれくらいですね。あとはサブオシレーターが2個ついてて、それらとメインオシレーターをFMする選択肢があることくらいでしょうか。メインオシレーターが4個あるよりも、メイン2サブ2のほうが脳への負担は小さいかもしれない。そういう観点ではSynthMaster2や3よりマシかもしれません。

 LFOの波形はオシレーターのシングルサイクル波形から自由に選ぶことができますが、描けたりはしません。シーケンス系の機能はあまり多くありません。

 地味に面白いのがパラメーターロック機能。SynthMaster Oneのユーザーは「プリセットを選び、微調整する」使い方が主になるかと想像しますが、その際に、リード用のエンベロープ設定をパッドのプリセットに無理やり適用させるなどして、プリセットの用途を広げる事も可能になります。(パラメーターロックは外し忘れやすいので注意)

 ちなみにマイクロチューニング対応なのはSynthMaster 2 / 3と共通です。トルコは多元的な音楽文化のある国ですからね。

6. 負荷・安定性
 CPU的には、「重くない」と思って問題ないと思います。SynthMasterのエンジン自体が2007年生まれの軽量なエンジンですし、SynthMaster Oneには大した機能も無いので、「軽い」という以上に「重くなる要素がどこにも無い」といえます。

7. Thornとの比較?
 近い価格帯で、かつよく名の通ったソフトシンセサイザーに、DS AudioのThornがあります。Thorn製品版は持ってませんが雑誌の付録についてた機能限定版は触ったことがあります。どちらもウェーブテーブル+減算式のシンセですが、SynthMaster Oneとはキャラから音質からGUIまでまったく別物と考えてよいと思います。
 SynthMaster Oneが優れているのは、
  • ジャンルを選ばず使える大量のプリセット
  • 高機能なプリセットブラウザがありプリセットが選びやすい
  • 普通の操作で普通の音が出しやすい。仕組みがオーソドックスで学習用に良い
  • CPUに優しい。
  • 音に程よい存在感がある
  • iPad版もあり、プリセットの共有が可能
 Thornが優れているのは
  • 透明感とパンチのある音質
  • 操作性がシンプルで、求める音にたどり着きやすい
  • クリック音をサンプルで鳴らす仕組みとか、現代的な要素が設計に組み込まれている。雑に触っていてもモダンな音が出るように設計されている
  • スペクトルフィルターなどの珍しい仕組みがある
  • 簡易的ながらウェーブテーブルの編集ができる
  • 独特の「グリッチシーケンサー」を搭載
 住み分けは容易なので、予算が許すならどちらも持つ価値があるシンセだと思います。

 しかし、DTM初心者の方が最初に買うシンセサイザーとしてはSynthMaster Oneのほうが良いと思いますし、すでにSerumやSpireなどの本格高機能シンセ環境が確立しているならば、Thornを選んだほうが役割の差別化が出来ると思います。
 

8. 総評
好きな点
  • 「プリセット系シンセ」と考えた時の圧倒的なコスパ。1000プリセットのうち半分くらいは「使える音」だと思ってる。タグ管理機能付きのプリセットブラウザも、この価格帯では珍しい
  • 見た目の華やカタログスペックではなく、音源としての実用性に振ったと思われる設計
  • 効果音系には弱いが、曲の基軸になるような音は大体出る
  • 出音に存在感がある(ミックスしやすい音)
  • iPad版がある(つまりiPadで作った音を、PCのDAWで使える)

微妙な点
  • SerumとかMassiveとかと比べると色々価格なりな面は意識させられる
  • Vitalとかと比べるとGUIの完成度は高くないと思う
  • 外部エフェクター無しだと粗い音になりやすい

好みが分かれそうな点
  • 実質的にはSynthMaster 3や2の下位互換。「機能が少ない」を利点と捉えるか否か。

 DAW付属で付いててほしいタイプの音源だと思いました。終始、質実剛健という印象に尽きます。
 正直、価格以外では上位互換に近いシンセがよく出回ってるというのがSynthMaster Oneの悲しさだと思うのですが、逆に音源1個に1万も2万も払いたくないという場合には、強い味方になると思います。


2025/12/23 更新