※この記事は一応Tracktion Collectiveのレビュー記事です。
イギリスの雑誌Computer Musicは、毎度やたら豪華な付録とそんなに面白くない紙面で世界中のトラックメイカーたちを楽しませてくれますが、300号記念となる2021年10月号にはなんとTracktion Waveform DAWの特別エディション(定価80ドル相当)が付録としてついてくるようです!
……などと公式サイトでは宣伝されていますが、KVR該当スレを見ればわかるようにこれは半分くらい嘘です。まずWaveform DAWの特別エディションなんてものはどこにも存在せず、その実態はただのWaveform Freeですのでいつでもどこでも無料ダウンロードして使えるものです。ではどこが特別で80ドル相当なのかというと、同社がWaveform Pro版にバンドルしているシンセサイザー音源"Collective"と、その別売りエキスパンション"Beta Maxed"が一緒に付いてくるという点です。即ち、Computer Music誌300号の付録は、正確にはWaveformの特別エディションではなく、Waveform Freeが抱き合わせになったCollectiveとエキスパンションのセットです。ちなみに、Collectiveを単独購入する定価は60ドルで、エキスパンションは定価50ドルなので、定価80ドル相当ではなく、110ドル相当です。あるいは過去のComputer Music誌のキャンペーンで購読者限定でCollectiveが半額になったことがあるので、その時の価格から計算している可能性があります。ちなみに、私が確認した範囲では雑誌の表紙にも、それどころか本文にも一切Collectiveという名前は出てきません。これは憶測ですが、CollectiveではなくあくまでDAWを売りたいTracktion社側からの営業工作が入ったのでは……と勘ぐってしまいます。
まあ、結果的には過去最安(約5.5ドル)でCollectiveが手に入り、ついでにエキスパンションまでついてきますのでセールとしてみるとかなり良いです。しかしもらえる期間がいつまでか不透明+もらえなかったとしても文句を言えないので、もらうならなるべくお早めに+もらえなかったとしても自己責任でお願い申し上げますね。それはそれとしてWaveform Freeは無料のわりに割と使えるDAWなので、今更強いおすすめはしませんが、弱く推奨します。ただしプラグインが揃ってない人はFLを買ったほうが早いし、プラグイン揃ってても60ドル払えるならReaper買ったほうがいいです。
前置きはさておき、Collectiveの私的レビューです。どうぞ
1. 概要
2. 操作感
GUIの見栄えはそこそこですが、使い勝手は人を選びます。全体的にページ切り替えが多く、基本的にはページごとに同じ大きさのノブが羅列されたGUIです。Melda製品に近しい感じがしますが、Meldaとは違って突然別ウィンドウが開くことはありませんのでマシだと思います。
シンセサイザーで重要になる一覧性には残念ながら劣りますが、その分画面レイアウトにはゆとりがあるため目には優しいと思います。DAW付属音源にはこれくらいがちょうどいいんじゃないかな。癖がない操作です。
プリセットブラウザはタグ付きの高機能なものですが、公式からしてタグ管理が錯綜しており、80sタグが2か所に分散してたりします。
3. 音質
これも人を選ぶと思うのですが、私はかなり好みな音です。フィルターを開けると細くてもしなやかなサウンドに、フィルターのセッティング次第では元気のよい音も出ます。u-heとかArturiaの音に慣れてると肩透かしを食うほどにスリムでデジタルな音ですが、その分サンプル素材ともFM合成とも合わせやすいです。フリーでこういう音が出るシンセは見たことがないですね。
上の動画からもお判りいただける通り、Collectiveは簡易的なドラムマシンにもなります。キックとかスネアに個別にEQコンプエフェクトがかけられたりする上、もちろんシンセ音を重ねるのも楽勝。意外と使えるかも?
ちなみにCollective(および元となったBiotek)の設計は、あのWaldorfで現代のヴィンテージPulseだけでなく、PPG Wave2.V, 3.VやAttack、Largoなど数々の伝説的ソフトシンセを送り出してきたWolfram Franke氏によるものだそう。そりゃいい音だわ。
しかし、こうやって見てみると付属する2GBのサンプルの質というのは、正直まあこんなものかといった程度かな。ダルシマーは良いけど。ただし、勘違いしてましたが、Collectiveは外部のWavとSF2を読み込めるようなので、SF2とかいう超レガシー規格を許容するならサンプルはいくらでも増やせます。シンセとしての出来は良いと思うので、読み込むサンプル次第では結構化けられると思うんですよね。ちなみに、設計者Franke氏によればEXS24も読み込めるそうですが(出典: https://www.kvraudio.com/forum/viewtopic.php?t=515810)、うちの環境では正常に読み込めていません。ネットの海を検索しても、EXS24が読み込めるという報告も、読み込めないという報告もありません。完全に謎です。
4. プリセット
率直に言うと、特に珍しいものが入っている感じはなく、どの音も無難で素材の味を活かした的な感じ。DAW付属なこともあって素直で使いやすい音が多め。80's~90'sサウンドに若干偏ってます。ダンス向けサウンドは最低限といった感じで、かといってGM音色を網羅しているわけでもない。でも数だけは多い。ラインナップ的にはSampleTankに近い気がしますが、SampleTankよりも音が上品です。
高機能すぎてエディット困難気味なBiotekとは異なり、Collectiveのほうはプリセットを適宜カスタムして使うやり方がしやすくなっているのかなと思います。
5. 機能面
方向性としてはAlchemyやKontakt、Falconのように、サンプルとシンセを組み合わせて音作りができる多機能インストゥルメントです、が、それらよりはずっと簡易なつくりです。
オシレーターは4つあり、それぞれサンプルを読むか、シンセ波形にするかが選べます。そしてそれらを普通にミックスするか、FM合成するかが選べる仕組み。サンプルも問題なくFMできるため、4オペレーター全部サンプルとかいう狂気のFMサウンドも作れます。これができるシンセは珍しいはず。使うかどうかはさておき。なお、残念ながらサンプルのループはできません。
フィルターは2つを直列につないであり、2つの間にディストーションが入る構成。比較的実用的かなと思われます。コムフィルターも搭載しているので結構楽しめます。また、ここで4バンドEQをかけることもでき、ミックスに便利です。
モジュレーションとしては4エンベロープ、4LFOですが、結線先は完全に固定です。実質Env1, LFO1はピッチ、Env2, LFO2は音色変化、Env3, LFO3はフィルター、Env4, LFO4はボリュームに専属。制約としてはデカ目ですが、これを自由化したBiotekとかいうシンセはモジュレーション周りの操作が死ぬほど煩雑になっているので、結果的には悪くないかなぁ。その代わりといっては何ですが、エンベロープはマルチステージ式なのでいくらでも複雑な形状が描けます。あとLFOは最高500Hzだよ。
最後にエフェクターが直列で4個インサート可能です。リバーブが3種類あることに加え、一式必要なものは揃ってると思います。なお、エフェクターの出力はフィルターと同じページにあるノブを上げないと聞こえないので初見の際は注意が必要です。
また、地味なメリットとして、Collectiveには上限なしのレイヤー機能があり、音をいくらでも重ねることができます。さらにレイヤーごとに対応する鍵盤音域を分けることもできるので、昔のシンセによくあったスプリット機能の再現や、内蔵EQを活かしてプラグイン一個でミキシングまで完結するドラムマシンなど、いろいろな可能性が考えられます。BMS作成時など、トラック数の節約が必要なとき力を発揮しそう。
総じて、制約らしい制約といえばモジュレーション宛先が固定なことと、サンプラー機能が今一つなことくらい。一方で無限レイヤーだったり、独特の音の良さもあったりするので、脇役に徹するワークステーションとしては良い働きをしそうな気がします。
6. 負荷・安定性
私の環境(Windows10, Waveform Free, Core i7 8750H)において、CPU負荷は低めです。同等のセッティングをしたSurgeと変わらないくらいです。プリセットによっては重いものもありますが、不当な重さではありません。プラグインの起動速度も標準か少し高速な部類です。
安定性について、Waveform Free上で高負荷時、一瞬右チャンネルから音が出なくなる現象を確認しています。条件は不定なようで、レンダリング時にも再現するバグかはわかりませんが、事前にフリーズして確認するなど手間をかければ対策可能なバグなのでギリ許容。そのほかの不具合・クラッシュには気づいていません。
7. 総評
好きな点
Tracktionの製品は全体的にコンセプト先行で完成度がアレなことが多いと感じるのですが、Collectiveは手堅い部類な気がしますね。ただサンプル音源としてはあまり期待できないかも。2GBのサンプルは、あくまで音作りの素材だと考えたほうがいいです(裏を返せば、素材としては優秀な雰囲気がします)。
まあ、脇役専門シンセとしては結構好きです。出音も姉妹品Biotek・F'emと並んで唯一無二(唯三無四?)な感じしますし。一時30ドルでも買おうか悩んでた時期がありました。
イギリスの雑誌Computer Musicは、毎度やたら豪華な付録
……などと公式サイトでは宣伝されていますが、KVR該当スレを見ればわかるようにこれは半分くらい嘘です。まずWaveform DAWの特別エディションなんてものはどこにも存在せず、その実態はただのWaveform Freeですのでいつでもどこでも無料ダウンロードして使えるものです。ではどこが特別で80ドル相当なのかというと、同社がWaveform Pro版にバンドルしているシンセサイザー音源"Collective"と、その別売りエキスパンション"Beta Maxed"が一緒に付いてくるという点です。即ち、Computer Music誌300号の付録は、正確にはWaveformの特別エディションではなく、Waveform Freeが抱き合わせになったCollectiveとエキスパンションのセットです。ちなみに、Collectiveを単独購入する定価は60ドルで、エキスパンションは定価50ドルなので、定価80ドル相当ではなく、110ドル相当です。あるいは過去のComputer Music誌のキャンペーンで購読者限定でCollectiveが半額になったことがあるので、その時の価格から計算している可能性があります。ちなみに、私が確認した範囲では雑誌の表紙にも、それどころか本文にも一切Collectiveという名前は出てきません。これは憶測ですが、CollectiveではなくあくまでDAWを売りたいTracktion社側からの営業工作が入ったのでは……と勘ぐってしまいます。
まあ、結果的には過去最安(約5.5ドル)でCollectiveが手に入り、ついでにエキスパンションまでついてきますのでセールとしてみるとかなり良いです。しかしもらえる期間がいつまでか不透明+もらえなかったとしても文句を言えないので、もらうならなるべくお早めに+もらえなかったとしても自己責任でお願い申し上げますね。それはそれとしてWaveform Freeは無料のわりに割と使えるDAWなので、今更強いおすすめはしませんが、弱く推奨します。ただしプラグインが揃ってない人はFLを買ったほうが早いし、プラグイン揃ってても60ドル払えるならReaper買ったほうがいいです。
前置きはさておき、Collectiveの私的レビューです。どうぞ
1. 概要
- Tracktion版のDAW付属総合音源
- Biotekと同等のサウンドエンジン
- 生音のサンプルが2GB収録
- FMシンセサイザーにもなる
- SF2プレイヤーにもなる
- マルチレイヤー、EQ付きなので地味に多芸
2. 操作感
GUIの見栄えはそこそこですが、使い勝手は人を選びます。全体的にページ切り替えが多く、基本的にはページごとに同じ大きさのノブが羅列されたGUIです。Melda製品に近しい感じがしますが、Meldaとは違って突然別ウィンドウが開くことはありませんのでマシだと思います。
シンセサイザーで重要になる一覧性には残念ながら劣りますが、その分画面レイアウトにはゆとりがあるため目には優しいと思います。DAW付属音源にはこれくらいがちょうどいいんじゃないかな。癖がない操作です。
プリセットブラウザはタグ付きの高機能なものですが、公式からしてタグ管理が錯綜しており、80sタグが2か所に分散してたりします。
3. 音質
これも人を選ぶと思うのですが、私はかなり好みな音です。フィルターを開けると細くてもしなやかなサウンドに、フィルターのセッティング次第では元気のよい音も出ます。u-heとかArturiaの音に慣れてると肩透かしを食うほどにスリムでデジタルな音ですが、その分サンプル素材ともFM合成とも合わせやすいです。フリーでこういう音が出るシンセは見たことがないですね。
上の動画からもお判りいただける通り、Collectiveは簡易的なドラムマシンにもなります。キックとかスネアに個別にEQコンプエフェクトがかけられたりする上、もちろんシンセ音を重ねるのも楽勝。意外と使えるかも?
ちなみにCollective(および元となったBiotek)の設計は、あのWaldorfで現代のヴィンテージPulseだけでなく、PPG Wave2.V, 3.VやAttack、Largoなど数々の伝説的ソフトシンセを送り出してきたWolfram Franke氏によるものだそう。そりゃいい音だわ。
しかし、こうやって見てみると付属する2GBのサンプルの質というのは、正直まあこんなものかといった程度かな。ダルシマーは良いけど。ただし、勘違いしてましたが、Collectiveは外部のWavとSF2を読み込めるようなので、SF2とかいう超レガシー規格を許容するならサンプルはいくらでも増やせます。シンセとしての出来は良いと思うので、読み込むサンプル次第では結構化けられると思うんですよね。ちなみに、設計者Franke氏によればEXS24も読み込めるそうですが(出典: https://www.kvraudio.com/forum/viewtopic.php?t=515810)、うちの環境では正常に読み込めていません。ネットの海を検索しても、EXS24が読み込めるという報告も、読み込めないという報告もありません。完全に謎です。
4. プリセット
率直に言うと、特に珍しいものが入っている感じはなく、どの音も無難で素材の味を活かした的な感じ。DAW付属なこともあって素直で使いやすい音が多め。80's~90'sサウンドに若干偏ってます。ダンス向けサウンドは最低限といった感じで、かといってGM音色を網羅しているわけでもない。でも数だけは多い。ラインナップ的にはSampleTankに近い気がしますが、SampleTankよりも音が上品です。
高機能すぎてエディット困難気味なBiotekとは異なり、Collectiveのほうはプリセットを適宜カスタムして使うやり方がしやすくなっているのかなと思います。
5. 機能面
方向性としてはAlchemyやKontakt、Falconのように、サンプルとシンセを組み合わせて音作りができる多機能インストゥルメントです、が、それらよりはずっと簡易なつくりです。
オシレーターは4つあり、それぞれサンプルを読むか、シンセ波形にするかが選べます。そしてそれらを普通にミックスするか、FM合成するかが選べる仕組み。サンプルも問題なくFMできるため、4オペレーター全部サンプルとかいう狂気のFMサウンドも作れます。これができるシンセは珍しいはず。使うかどうかはさておき。なお、残念ながらサンプルのループはできません。
フィルターは2つを直列につないであり、2つの間にディストーションが入る構成。比較的実用的かなと思われます。コムフィルターも搭載しているので結構楽しめます。また、ここで4バンドEQをかけることもでき、ミックスに便利です。
モジュレーションとしては4エンベロープ、4LFOですが、結線先は完全に固定です。実質Env1, LFO1はピッチ、Env2, LFO2は音色変化、Env3, LFO3はフィルター、Env4, LFO4はボリュームに専属。制約としてはデカ目ですが、これを自由化したBiotekとかいうシンセはモジュレーション周りの操作が死ぬほど煩雑になっているので、結果的には悪くないかなぁ。その代わりといっては何ですが、エンベロープはマルチステージ式なのでいくらでも複雑な形状が描けます。あとLFOは最高500Hzだよ。
最後にエフェクターが直列で4個インサート可能です。リバーブが3種類あることに加え、一式必要なものは揃ってると思います。なお、エフェクターの出力はフィルターと同じページにあるノブを上げないと聞こえないので初見の際は注意が必要です。
また、地味なメリットとして、Collectiveには上限なしのレイヤー機能があり、音をいくらでも重ねることができます。さらにレイヤーごとに対応する鍵盤音域を分けることもできるので、昔のシンセによくあったスプリット機能の再現や、内蔵EQを活かしてプラグイン一個でミキシングまで完結するドラムマシンなど、いろいろな可能性が考えられます。BMS作成時など、トラック数の節約が必要なとき力を発揮しそう。
総じて、制約らしい制約といえばモジュレーション宛先が固定なことと、サンプラー機能が今一つなことくらい。一方で無限レイヤーだったり、独特の音の良さもあったりするので、脇役に徹するワークステーションとしては良い働きをしそうな気がします。
6. 負荷・安定性
私の環境(Windows10, Waveform Free, Core i7 8750H)において、CPU負荷は低めです。同等のセッティングをしたSurgeと変わらないくらいです。プリセットによっては重いものもありますが、不当な重さではありません。プラグインの起動速度も標準か少し高速な部類です。
安定性について、Waveform Free上で高負荷時、一瞬右チャンネルから音が出なくなる現象を確認しています。条件は不定なようで、レンダリング時にも再現するバグかはわかりませんが、事前にフリーズして確認するなど手間をかければ対策可能なバグなのでギリ許容。そのほかの不具合・クラッシュには気づいていません。
7. 総評
好きな点
- 唯一無二の美しいデジタルサウンド
- 生音と電子音を組み合わせた音作りに役立つ
- サンプルをFMできる
- こっそりSF2形式のマルチサンプル再生にも対応
- マルチステージエンベロープ
- 高機能EQ搭載
- 可能性を秘めたレイヤー機能
- 割と軽い
- モジュレーション周りの制約が厳しめ
- サンプルの音色数はGM音色一式くらいは欲しかった
- EXSには対応してるの?してないの?
Tracktionの製品は全体的にコンセプト先行で完成度がアレなことが多いと感じるのですが、Collectiveは手堅い部類な気がしますね。ただサンプル音源としてはあまり期待できないかも。2GBのサンプルは、あくまで音作りの素材だと考えたほうがいいです(裏を返せば、素材としては優秀な雰囲気がします)。
まあ、脇役専門シンセとしては結構好きです。出音も姉妹品Biotek・F'emと並んで唯一無二(唯三無四?)な感じしますし。一時30ドルでも買おうか悩んでた時期がありました。
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