さんざん揺れてましたが結局Unfiltered Audio LIONを購入したので記事を書くことにします。エフェクターを活かして戦うタイプの変則シンセサイザーです。
 これは完全に私個人の愚痴ですが、最近ちょっと創作趣味自体の意義がわからなくなってしまっているので、曲を作る道具としてではなく音の出るミニゲームのつもりで買いました。ので今までの私と比べると真面目じゃないレビューになると思います。


1. 概要
  • 2オシレーター、1フィルター、13モジュレーター
  • エフェクター使いたい放題
  • 変調させたい放題
  • ノイズに強い(違う意味で)
  • 普通の音を一瞬でこの世の終わりみたいな変態サウンドにモーフさせられる

2. インターフェース・操作感
 GUIは鮮やかで見栄えもよく、説明書を軽く読んだだけで使い方が大体わかるよう明快に作られています。モジュラーシンセのようにパッチケーブルを繋いで変調を設定していくグラフィックも直感的ですが、変調が複雑になればなるほど画面が見にくくなります(パッチケーブルは一括で隠せますが、それだけではあまり問題は解決しません)。私はモジュレーションマトリックスの文字を読むよりも線を目で追ったほうが頭に入るタイプの人間なので、LIONのGUIは好きです。
 また、音作りに直接関係しない操作子を徹底的に画面端に追いやっているのも良い点で、余計な視線移動も抑えられているのかなと。GUIにはページ切り替えもなく、音作りに必要な情報が過不足なく一覧できる仕組みです。これは素直に素晴らしいと思います。
 性質上、音作りの際はモジュレーターとエフェクターを次々と追加していくタイプの操作になります。モジュレーターとエフェクターは並び替えられるのが良心的で素晴らしい。モジュレーターとエフェクターをコンパクト表示にする機能もあって素晴らしいですが、追加すればするほど横長になることは避けられないので、横スクロールができるマウスでないと操作は厳しめだと思います。ケーブル操作と横スクロールを許容するか否かで評価が変わるUIといえそうです。

3. 音質
 あまり音質で売るシンセはないのかなとは思いつつですが、それを踏まえた上だと悪くないと思います。ハードウェアっぽい存在感はありませんけどね。EDM系のイケイケサウンドで使うことを思うと、高音の出が悪いとかエンヴェロープのアタック感が無いとか色々文句はありますが、有名なVitalとか最近出たフリーシンセのGR-8とかいくらでも代替手段はありますから、LIONは「そうでない音」のための音源なのかなと。
 総合的にはノイズや、ノイズと楽音の中間みたいな音に一番強いイメージです。エフェクターの一つであるRenoun Reverbが地味に濃厚で良い音なので、Renoun Reverbをかけると大体の音色が良く聞こえます。
 実はデジタル特有の折り返しノイズ(エイリアシング)対策がキッチリされていて、オーバーサンプリングに頼らずとも大抵のオシレーター出力はクリーンです。逆にエフェクター部分には、Ladder Filterなど一部を除けば折り返しノイズを防ぐ仕組みは実装されていないようですので、用途次第で外部プラグインと使い分けましょう。

4. プリセット
 これは賛否両論あるところで、数は結構そろってるんですが質がバラバラです。シネマティック・テクノ・エレクトロニカっぽい感じのに限ればかなり良いものも混じってますが、その大半が"9.Artists"カテゴリの中に埋もれてます。そうですね。Artistsカテゴリの中は割と良い音が多いです。
 面白い音のプリセットは高確率でディレイ系エフェクターに依存しているのですが、裏を返せばディレイの良い勉強になります。ほかのシンセではエフェクターが貧弱なばっかりにいい加減な仕上がりになりがちなSFX系プリセットですが、LIONのそれは素晴らしいですよ。変にシーケンサー頼みじゃない分、実際の曲作りにも取り入れやすいと思います。
 公式のデモに登場しない良いプリセットはたくさんあるのと、LIONはプリセットの微調整がやりやすいシンセなので、見た目よりプリセットを使う機会はありそうです。が、EDM調なプリセットの出来栄えからみるに、その系統に行くのはもはや無理だと思います。

5. 機能
 公式サイトのマニュアルが割とよくできているので、大体何ができるシンセなのかは読めばわかります。ただし副作用として、読むと欲しくなります。

 まずオシレーターは普通の波形に加え、リングモジュレーションやFMを応用した独自のアルゴリズムを27パターンから選べます。たくさんあるように見えますが、似たようなアルゴリズムもあるので実質10種くらいです。ウェーブテーブル式シンセほど露骨な音色変化はありませんが、ウェーブテーブル式は読み込んだ波形以上のことをやりにくいところがあると思うので、その点LIONの自由度は高そうですね。ちなみにLIONのFMは位相変調ではなく周波数変調で、FM系アルゴリズムは3つあるのに3つとも使い勝手が微妙です。せめて位相変調機能くらいは欲しかったですね。
 LIONのミキサーは奇妙なことをします。普通に混ぜることもできますが、"Terrain", "Bitter"など奇妙な混ぜ方をすることで、まったく異なる音を作り出すことができるからです。音の系統としてはFMやRingの延長線上にいますが、それとはまた違う独特の効き方をします。LIONの音作りで一番劇的なのはこのミキサー部分かもしれません。どの混ぜ方も、思い付きで作ったにしては汎用性が高いです。ただしやりすぎるとワンパターンな音になりがちなので、節度を持つことも重要そう。
 フィルターが1系統しかないのは少し制約かもしれません。一応、ラダーフィルターやSVF、Sallen-Key?のエミュもできますが、アナログっぽさを足すというよりはそれっぽいキャラクターのデジタルフィルターだと思ったほうがいいです。ポリフォニーじゃなくていいならエフェクターセクションのフィルターを使う手もあります。
 モジュレーターは大量に(合計13個ほど)使えますが、ダンス系シンセで人気のMSEGは非装備です。その代わり他のモジュレーター出力に算術的・論理的処理を加えるモジュレーターなどが搭載されています。モジュラーシンセの流れをくむアプローチに見えますが、LFOの最高速度は20Hz止まりで、高速LFOブームの現代においては少し物足りなく感じます。一応LIONにはオーディオレート(数千Hz以上)で駆動できるビブラートエフェクターが付いているのでそれで代用できなくもないです。

 そうそう、LIONのエフェクターにはオーソドックスなものもありますが、ディレイの"Glitch Shifter", "Instant Delay"とかディストーションの"Waveset"、グラニュラー系各種など、かなり特殊なものも収録されています。これがまたシンセと共通のモジュレーターで好き放題できるので、ポリフォニックじゃないことを除けばこれもシンセの一部みたいなもんです。MIDI信号もしっかり受け取りますよ。

6. マイクロチューニングについて
 LIONはtunファイルによるマイクロチューニングに対応しています。tunファイルは配布されているものを入手するほか、u-he社が自作用ツールをWebで公開していたりします。
 地味に重大なメリットですが、LIONは如何なるチューニングを適用したとしても、ポルタメントを正常に処理します。Serum(又聞きですが)やSynthMasterなど、他の多くのチューニング可能シンセサイザーは、たとえばA=440Hz、A#=330Hz、B=550Hzでチューニングした際、AからBにポルタメントさせると間にあるA#の影響を勝手に受けて一旦音が下がってから上がりやがります。私の経験上こうならないシンセは地味に珍しいので、LIONはそれだけでも価値があるといえます。

7. 負荷・安定性
 私が重要視するプラグインのGUIの開閉速度という点で、LIONは非常に優秀です。というかUnfiltered Audioのは大体全部優秀です。同じアメリカのiZotopeやTracktionにも見習ってほしいですね。
 一方でCPU負荷のほうは音色によっては高め。オーバーサンプリングするとさらに上昇します。音のキャラクター的にオーバーサンプリングに依存しなくてもよい感じなのがまあ救い。とはいえLION内部で全部エフェクターをかけていることを思えば法外に重い印象はありません。

 仕様ではなくバグだと思うのですが、私の環境では一部のプリセットにおいて、Frequency Shifterエフェクターの出力が無限に大きくなる不具合が発生します(VST3のみ?)。

8. 製品のコンセプトについて
 私は専門家ではないのでコンセプト云々を論じられる立場ではないのですが、LIONはコンセプト勝負のシンセだと思ったので……。
 少なくともLIONは「なんでもできる君」ではありません。出来合いのフローチャート、出来合いのアルゴリズムを何パターンか用意して、それに好きにLFOかけていいよ、好きにエフェクターかけていいよ、と言ってるに過ぎません。
 私も買う前は、「サンプラー機能やウェーブテーブル音源が入っていればよかったのに」などと思っていました。それらは音の情報量を飛躍的に増やしますから。が、実際LIONを触ってみると、それらを搭載しなかったのはコストダウンのためではなく、むしろUnfiltered Audioの美学的見地によるものなんじゃないかと思うに至りました。LIONの特徴である、汎用性を捨てて出来合いのアルゴリズムを組み合わせる仕組みのメリットは、「ユーザーが簡単に複雑な音にたどり着ける」という一点です。すなわちLIONは最初っから不連続な外部ファイルには頼る気などなく、上のメリットを活かし、100%アルゴリズムだけでサンプラーのお手軽情報量に対抗するというコンセプトのシンセとは言えないでしょうか。
 確かにサンプラーの出音は元のサンプルに依存しきってますし、シンセとサンプラーを組み合わせるアプローチはナンセンスなノイズを生み出すばかりでなかなか上手くいかない印象です(Biotekは数少ない成功例か?)。また、ウェーブテーブル音源は仕組み上非倍音成分が出せず、変な音を出そうとすると基本FMに頼るしかありません。
 LIONの各種アルゴリズムは使えるヤツと使えないヤツが入り混じってるわけですが……まあ、アナログシンセにSyncとRingを付け足すだけで音作りの幅が死ぬほど広がりますからね。使えるヤツだけ使っても十分幅広く音を作れると思いますよ。
 ちなみに、LIONにはコッソリ珍しい機能が実装されていて、その一部が「シンセに音声入力を突っ込んでそのラウドネスをモジュレーションソースとして使う」というのと「オシレーターピッチをモジュレーションで揺らすとき、揺れ方にクォンタイズをかけられる(グリッサンド効果が得られる)」というの、あとは「フェーザーのステージ数もモジュレーションで変調可能」とか。
 まあ、全体的に「シンセ遊び」に特化したシンセなのかなぁと。云々。

9. 総評
好きな点
  • 音作りに特化したGUI
  • エフェクターを絡めた音作りが圧倒的に楽しい
  • ワンクリックで普通の音を奇妙な音に変えることができる

好きじゃない点
  • 全体的にしっかり目の制約がある
  • LFOが最高20Hzまで・ステップシーケンサーに32分音符が設定できない
  • いっそマルチバンドでエフェクターをかけたい
  • いっそポリフォニックでエフェクターをかけたい
  • FM系の音作りに弱い

 シビアな使い方をするにはUIがファンシー過ぎたり、詰め切れないところがあるんじゃないかなとは思います、が、個人的には「シンセなんか適当につまみを回してりゃいいんだよ!」程度のノリで操作していると、「あっ意外と拘りに応えてくれるんだな」と嬉しい裏切りを感じることもあります。
 多機能過ぎないシンセサイザーを使うメリットって大体、変な選択肢を減らして楽に音作りができるって事だと思うのですが、LIONはここであえて変な選択肢を簡単に扱える形で残しているんですよね。楽しいGUIを合わせて、非常に簡単に変な音が作れるシンセに仕上がっているわけですが、果たしてLIONが一発屋なのか、それとも意外と奥が深い奴なのかはまた今後使い込んでいくうちに判断しようと思います。